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麹で変わる味噌の味わい|甘みと香りの奥深さ

コラム
味噌と麹が台所で並んでいるイメージ図

味噌のパッケージや解説で「米麹」「麹(こうじ)」という言葉を目にして、これは一体何だろう、と思ったことはないでしょうか。味噌は大豆と塩、そして麹からつくられますが、その中でも麹は、味噌の甘みや香り、旨みを左右する存在です。

この記事では、そもそも麹とは何かというところから、米麹・麦麹・豆麹の違い、そして麹が味噌の味わいをどのように生み出すのかまでを順を追って見ていきます。読み終える頃には、いつもの味噌汁の一口が、少し違った奥行きを持って感じられるかもしれません。

麹とは何か

麹とは、蒸した米や麦、大豆などの穀物に「麹菌(こうじきん)」という微生物を繁殖させたものです。麹菌は、味噌や醤油、日本酒などの発酵に古くから使われてきたカビの一種で、味噌づくりに用いられるのはニホンコウジカビ(学名:アスペルギルス・オリゼー)と呼ばれる種類です。2022年に制定された味噌の日本農林規格(JAS)でも、味噌に使う麹菌はこのニホンコウジカビとすることが定められています。

麹そのものが直接、味噌に甘みや旨みを加えているわけではありません。麹の働きの中心にあるのは、麹菌がつくり出す「酵素」です。酵素は、原料に含まれるデンプンやタンパク質を分解し、別の成分へと変えていきます。この分解の積み重ねが、時間をかけて味噌ならではの味わいと香りを育てていきます。

「麹」と「こうじ」は同じものを指し、原料の穀物によって「米麹」「麦麹」「豆麹」などと呼び分けられます。この麹の違いこそが、味噌の個性を分ける最初の分かれ道になります。

米麹・麦麹・豆麹はどう違う?

味噌に使われる麹は、大きく米麹・麦麹・豆麹の3つに分けられます。名前のとおり、原料となる穀物が異なり、それぞれが対応する味噌の種類と結びついています。JASでも、味噌は使う麹の種類によって、米みそ・麦みそ・豆みそ、そしてそれらを混ぜ合わせた調合みそに分類されています。

米麹・麦麹・豆麹の違いと、対応する味噌の種類・味わいの傾向を示した比較図
麹の種類 主な原料 対応する味噌 味わいの傾向
米麹 蒸した米 米味噌 甘みやまろやかさが出やすい
麦麹 蒸した麦 麦味噌 麦特有の香ばしさと甘みがある
豆麹 蒸した大豆 豆味噌 濃厚で、独特のコクや渋みがある

米麹は、蒸した米に麹菌を繁殖させたものです。全国で最も広く使われている米味噌に用いられ、甘みやまろやかさにつながりやすいとされています。

麦麹は、蒸した麦に麹菌を繁殖させたもので、主に九州や四国、中国地方などでつくられる麦味噌に使われます。麦ならではの香ばしい風味が感じられるのが特徴です。

豆麹は、蒸した大豆に麹菌を繁殖させたものです。米や麦の麹とは違い、大豆そのものに麹菌を育てる点が大きく異なります。主に東海地方でつくられる豆味噌に使われ、濃厚な味わいや独特のコクにつながります。

なお、これらは味わいの「傾向」であり、同じ米味噌でも商品や地域によって印象は変わります。麹の種類は味噌の個性を大きく方向づけますが、それだけで味のすべてが決まるわけではありません。

麹はどうやって味噌の味わいを生むのか

麹が味噌の味を左右するといっても、麹自体に甘みや旨みがたっぷり含まれているわけではありません。鍵を握るのは、麹菌がつくり出す酵素の働きです。ここでは、代表的な二つの酵素に注目してみます。

一つは「アミラーゼ」です。アミラーゼは、原料に含まれるデンプンを分解して糖に変えます。この糖が、味噌のやさしい甘みのもとになります。米麹を使った味噌に甘みを感じやすいのは、米に多く含まれるデンプンがアミラーゼによって糖へと変わっていくためと考えられています。

もう一つは「プロテアーゼ」です。プロテアーゼは、大豆などに含まれるタンパク質を分解してアミノ酸に変えます。このアミノ酸が、味噌の旨みのもとになります。だしを使わなくても味噌汁に深い味わいが感じられるのは、こうしたアミノ酸の働きが背景にあります。

麹が味噌の味を生む仕組み(アミラーゼ→デンプン→糖→甘み、プロテアーゼ→タンパク質→アミノ酸→旨み)を示した図

こうして生まれた糖やアミノ酸は、熟成が進む中でさらに変化し、味噌特有の香りにも関わっていきます。麹は、いわば味わいと香りを育てる「働き手」のような存在だといえます。

麹の量や割合は味わいにどう関係する?

味噌づくりの世界には「麹歩合(こうじぶあい)」という言葉があります。これは、原料の大豆に対して、米麹や麦麹をどれくらいの割合で使うかを表したものです。麹の割合が多いか少ないかは、味噌の味わいに関わる要素の一つとされています。

一般的な傾向として、塩分が同じくらいであれば、麹歩合が高い(麹を多く使う)味噌ほど甘口に、麹歩合が低い味噌ほど辛口に仕上がりやすいといわれています。麹が多いほど、アミラーゼによって生まれる糖も増えやすくなるためと考えられます。

麹歩合(麹の割合)と味わいの関係(辛口寄り〜甘口寄り)を示したイメージ図

ただし、ここで気をつけたいのは、「麹が多ければ必ず甘くなる」と単純には言い切れないことです。味噌の甘みや辛みは、麹の割合だけでなく、塩分の量や熟成の期間などが組み合わさって決まります。同じくらいの麹歩合でも塩分が高ければ塩気を強く感じますし、熟成が長く進めば色も味わいも変わっていきます。

つまり、麹は味わいを決める大切な要素ではあるものの、あくまで複数ある要素の一つです。麹の割合を「甘さの目安の一つ」として捉えると、味噌選びの見方が少し広がるかもしれません。

複数の麹を組み合わせるという考え方

味噌の中には、異なる種類の麹や味噌を組み合わせてつくられるものもあります。米味噌と麦味噌、米味噌と豆味噌といったように、複数を合わせたものは調合味噌と呼ばれます。

こうした組み合わせによって、それぞれの麹が持つ味わいの特徴が調和し、まろやかで食べやすい風味になることがあります。米麹の甘み、麦麹の香ばしさ、豆麹のコクといった個性を、目的に応じて掛け合わせられるのも、麹という素材の面白さの一つです。

日本各地には、その土地ごとに親しまれてきた味噌があり、使われる麹の種類もさまざまです。味噌を専門に扱うお店の中には、味噌らーめん専門店の田所商店のように、北海道・信州・九州・江戸前・伊勢といった各地の味噌を扱い、店舗ごとに地域の特性に合わせた味噌を選んで提供しているところもあります。同じ味噌という言葉でも、麹の違いによってこれほど幅広い味わいが生まれることを知ると、一杯の味噌汁やラーメンの見え方も少し変わってきそうです。

麹について、もう少し知っておきたいこと

「こうじ」と「麹」は同じものですか。

同じものを指します。漢字で「麹」、ひらがなで「こうじ」と書かれます。原料の穀物によって、米麹・麦麹・豆麹などと呼び分けられます。

麹菌はどんな生き物ですか。

麹菌は、発酵に古くから使われてきたカビの一種です。味噌づくりに使われるのはニホンコウジカビ(アスペルギルス・オリゼー)で、蒸した米や麦、大豆の上で育ち、味わいのもとになる酵素をつくり出します。

塩麹と味噌の麹は同じですか。

塩麹は、米麹に塩と水を加えて発酵させた調味料で、味噌そのものとは別のものです。ただし、米麹を使い、麹菌の酵素の働きで旨みや甘みが生まれるという点では、味噌づくりと共通する部分があります。

豆味噌は、米味噌や麦味噌と何が根本的に違うのですか。

米味噌や麦味噌は、米や麦につくった麹を蒸した大豆と合わせてつくります。一方の豆味噌は、大豆そのものに麹菌を育てた豆麹を使います。原料に麹をつける段階から異なるため、濃厚で独特の味わいになりやすいとされています。

まとめ

麹は、蒸した米や麦、大豆に麹菌を繁殖させたもので、味噌の甘みや旨み、香りを育てる働きを担っています。麹菌がつくるアミラーゼが甘みを、プロテアーゼが旨みを生み、使う麹の種類によって米味噌・麦味噌・豆味噌といった個性が分かれていきます。

麹の割合(麹歩合)も甘みに関わりますが、味噌の味わいは塩分や熟成など、いくつもの要素が重なって決まります。「麹が多いから甘い」と一言で片づけられないところに、味噌づくりの奥深さがあります。

普段何気なく口にしている味噌にも、麹という小さな働き手の存在があります。次に味噌を選んだり味わったりするとき、どんな麹が使われているのか、少し想像してみると、味噌の世界がまた一歩広がって見えるかもしれません。

参考文献